出典: Financial Times

抗菌薬耐性が次なる闘いとなる

Covid-19は、将来の脅威に対処するための治療薬を開発しなければならないということを私たちに警告しています。

Antimicrobial resistance is the next battle

執筆者:グラクソ・スミスクライン最高責任者

Covid-19の世界的流行は、世界的な健康上の脅威に対して、より適切な備えをする必要があることを示しています。グラクソ・スミスクラインを始めとする製薬企業は、新たな治療薬やワクチンでコロナウイルスに立ち向かうべく全力で取り組んでいますが、ウイルスに先手を取られた形になっています。私たちはアウトブレイクに対する先行投資を開始する必要があります。

薬剤耐性(AMR)は、まさにそうした脅威の1つですが、Covid-19と異なり、AMRは予測することができます。すでに研究者らの追跡調査で薬剤耐性率が上昇していることが明らかになっており、世界保健機関と米国疾病対策予防センターは、ヒトの健康に対するリスクが最も大きい細菌を特定しました。

このままでは、ちょっとした切り傷で命を落としたり、一般的な外科手技ですらリスクが高すぎてできなくなったりする時代に逆戻りする恐れがあります。国連の推定によると、対策を取らなければ、薬剤耐性疾患によって2050年までに年間1,000万人が死亡し、世界経済に対して100兆ドルを超える壊滅的影響が出る可能性があります。

新しい抗菌薬は慎重に使用する必要があり、いざという時のために取っておくか、あるいは最後の手段としてのみ使用する必要があるため、売上高が低くなります。その結果、新たな研究開発投資を支える財務収益がほぼ枯渇した状態になっています。 抗菌薬に取り組む複数のバイオテクノロジー企業が最近倒産したことは、そうした現状をよく表しています。その解決策は明らかです。必要なのは、製薬企業からのコミットメントと、長期的な研究開発投資を引きつける新たなインセンティブです。そうした投資を引きつける「プル型」インセンティブは、許容できる利益を得られる予測可能な市場を創出することによって、大小の企業の根底にある経済の抜本的な改革につながります。

現在の新規抗菌薬のパイプラインでは、将来の薬剤耐性感染症を治療するには不十分です。現在臨床開発段階にある約40剤の抗菌薬のうち、WHOによって新規とみなされているのはわずか6剤のみです。GSKのGepotidacinはその1つであり、その他は収益や資金が限定的な小規模企業によって開発が行われています。

先週発足した10億米ドルのAMRアクションファンドは、このギャップを橋渡しし、新たなイノベーションを刺激して、薬剤耐性感染症の増大の先を行くための重要な取り組みです。業界は、2030年までに2~4剤の新規抗菌薬を患者さんに届けることを目指して、WHO、欧州投資銀行、及びウェルカム・トラストとともに取り組んでいきます。 この30年間、製品化された新規クラスの抗菌薬はないことから、これは野心的な目標と言えます。

しかし、こうした業界の取り組みに加えて、新たなインセンティブも必要です。この点については、ほとんど進展が見られていません。その主な障害は政治的なものです。将来の健康リスクに対する投資を優先させても、票集めにはほとんどつながらないからです。しかし、こうした現状はCovid-19によって確実に変わるはずです。

英国では、プル型インセンティブを先駆的に取り入れています。同国は昨年、新規抗菌薬の購入に対するサブスクリプションモデルを開発、検証するための試験的取り組みを開始しました。このモデルが正しく機能すれば、社会に対する新規抗菌薬の価値を反映した金銭的報奨が創出され、将来の耐性率の不確実性に伴う負担を企業と支払者が分け合うことができます。英国は、この試験的取り組みの対象を現在の2剤だけにとどめず、今後発売されるほかの治療薬にも拡大していくべきです。

ほかの国々も、率先的に取り組む必要があります。政府の支援は、業界がCovid-19の治療薬やワクチンの開発を加速させるのに役立っており、そうした支援は抗菌薬にとっても極めて重要になります。米国における進歩は必要不可欠です。パスツール法の下で、抗菌薬についてサブスクリプション制のような支払い制度をつくるという初期段階の議論が議会でなされているのは歓迎すべきことですが、さらに突き詰めて審議を行っていくべきです。知的財産に基づく特許存続期間延長証明書の発行や、ドイツで導入された抗菌薬に対する医療技術評価法の変更といったその他のインセンティブは、欧州にとって有望な選択肢であり、探索していくべきです。

私たちはこれまでの流れを変え、AMRに対する取り組みに弾みをつけることができます。この新たなファンドは、専門家を結集し、すべてのステークホルダーの取り組みを統合するハブとして機能することになるでしょう。今後、このファンドが引き金となり、取り組みが広がっていくことを期待しています。