出典: labiotech.eu

薬剤耐性に対処する8億7,000万ユーロの世界的ファンドが発足

製薬業界や、欧州投資銀行などの公的資金提供者が参加する世界的な共同取り組みとして、増大する薬剤耐性菌による危機に対処するため、8億7,000万ユーロ(10億米ドル)を投資することを約束するファンドが設立されました。

このAMRアクションファンドと呼ばれるファンドには、これまでに世界中から20社を超える製薬企業が資金を拠出しています。それに加えて、世界保健機関、欧州投資銀行、英国の慈善団体であるウェルカム・トラストなどの組織も参加しています。

同ファンドの目標は、新規抗菌薬を開発する企業に資金を提供し、2030年までに2~4剤の新規抗菌薬を患者さんに届けることです。同ファンドは、今年の後半に運営を開始する予定です。

この新ファンドに対する支持を表明している英国の抗菌薬開発企業Destiny Pharmaの創設者で最高科学責任者のWilliam Love氏は、「薬剤耐性の健康上及び経済上の影響は、この数年間ではるかに明確なものとなっており、国連、WHOG7などの組織によって国際的危機として認識され、対策の必要性が強調されています」と説明しています。

薬剤耐性により、毎年70万人が死亡しています。この問題に対処しなければ、薬剤耐性感染症の急増により、2050年までに年間1,000万人が死亡すると予測されています。

AMRアクションファンドは、バイオテクノロジー部門にとって特に重要な意味を持ちます。というのも、抗菌薬耐性という世界的な問題に対処するために抗菌薬開発へのさらなる投資の必要性を訴える報告書が多数発表されてきたにもかかわらず、大手製薬企業による実質的な対応は今回が初めてのことだからです」とLove氏は語りました。

バイオテクノロジー企業は、抗菌薬開発において非常に重要な役割を担っています。Destiny Pharmaは、黄色ブドウ球菌などの細菌における従来の抗菌薬への耐性と闘うことができる、新しい作用機序を有する抗菌薬を開発しており、同ファンドの恩恵を受けられる可能性がある企業の1つです。

抗菌薬の開発は、膨大な時間と費用がかかる複雑なプロセスです。多くの候補物質は臨床試験で失敗に終わり、販売には至りません。ベンチャーキャピタル企業のノボホールディングスによる1億3,500万ユーロの投資ファンドなどの欧州の資金供給取り組みは、抗菌薬の初期開発段階に貢献してきました。それに対して、AMRアクションファンドでは、資金調達が最も困難な段階である新規抗菌薬の後期臨床開発段階を支援していきます。

新たな抗菌薬が承認されると、耐性の発現を遅らせて有効性を温存するために、できるだけ使用が控えられます。しかし、それによって、企業は頑健な抗菌薬パイプラインを維持するために必要な収益が得られません。

「一部の抗菌薬が直面する投資利益率の低さに対処するため、多数のさまざまなアプローチが検討されています。これには、価格を高く設定することによる償還、事前購入の保証、知的財産の保護期間の延長、取引可能な特許存続期間延長証明書の発行などがあります」とLove氏は述べています。

薬剤耐性と闘うための抗菌薬を開発しているバイオテクノロジー企業に報奨を与える別の手段の例には、英国で実施されているものがあります。昨年新たな政策が施行され、企業は抗菌薬の販売量ではなく、その抗菌薬が英国の国民保健サービスにとってどの程度価値があるかに基づいて支払いを受ける形になっています。

「完全政府出資の抗菌薬開発を行うか、あるいは抗菌薬開発に参加しない企業には課税する「参加か負担か(play or pay)」など、より抜本的なアプローチも検討されています」とLove氏は語りました。