出典: The Pew Charitable Trusts

新しい抗菌薬が速やかに開発されなければ、「私たちは非常に困難な事態に陥ることになる」

世界的な抗菌薬研究の促進リーダーが、スーパー耐性菌に立ち向かうためのイノベーションの喫緊の必要性について語っています

化学者としての学歴を持つErin Duffy氏は、20年以上にわたって創薬に携わっており、その中で新規抗菌薬の創薬と開発という大きな問題とじかに向き合ってきました。

Duffy氏は、CARB-X(Combating Antibiotic-Resistant Bacteria Biopharmaceutical Accelerator)に加わる前は、新規抗菌薬開発企業のMelinta Therapeuticsで執行副社長兼最高科学責任者を務めていました。同社は、最近新たな抗菌薬を市場に投入したにもかかわらず、2019年に破産申請を行いました。開発コストの高さに加え、収益性も限られていることから、事業運営を維持できない企業が増えており、同社もその1社となってしまいました。

現在、Duffy氏はCARB-Xの研究開発責任者を務めています。CARB-Xは、ボストン大学が主導する非営利団体であり、革新的な抗菌薬の早期開発段階を加速させるために、企業や政府、主要な財団と提携し、資金提供や専門家による支援を行っています。

Duffy氏は、革新性の高い有望な科学を支援し、増大しつつある喫緊の薬剤耐性菌による脅威に立ち向かうグローバルな集学的チームを指揮しています。同氏は先ごろ、CARB-Xの取り組みや組織の将来像、そして喫緊に必要とされている抗菌薬が製品化されるようにするために何を行う必要があるかについて語りました。以下はそのインタビューの内容を編集し、わかりやすくまとめたものです。

Q:CARB-Xで働くことになったきっかけについて少しお話しいただけますか?

A:私がMelintaで運営していた研究プログラムの1つがCARB-Xの投資を受けた縁で、CARB-Xのことはよく知っており、私の考えに合った組織のように思いました。私は、CARB-Xが初期段階の製品に特化して注力している点や、有望な候補の可能性が十分に検討されないまま見限られてしまうことがないよう取り組んでいる点を高く評価しています。製薬会社、特にリソースが限られている製薬会社では、収益をもたらす発売済みの製品や後期段階にある資産が重視される場合が多くあります。それにより、初期のプログラムが犠牲になることが多く、つまりは患者さんを救える可能性のある製品を逃してしまうことが多々あるということになります。

Q:CARB-Xの立ち上げから約5年になりますが、これまでの主な成果や課題にはどのようなものがありますか?

A:CARB-Xは、抗菌薬耐性に立ち向かうための有望なイノベーションを特定し、加速させる、効率的かつ効果的な組織としての地位を早々に確立しました。CARB-Xの設立前は、いかに多くのイノベーションが生まれているか、また、それにもかかわらず次の段階に進めるために必要な支援が得られないことがいかに多いかをきちんと認識している人はいなかったのではないかと思います。CARB-Xでは、これまでに1,000件以上の関心表明を受け付け、抗菌薬耐性による感染症の治療、予防、及び診断を目的とした70以上のプログラムを支援し、7製品を後期開発段階に進める手助けをしました。

その中で私たちは多くのことを学び、それに応じて変更を行ってきました。チームを拡大して開発者に最高の専門知識を提供できるようにし、プロセスを合理化し、現在の抗菌薬市場の課題を考慮して必要なコスト共有を削減しました。

Q:今後5年間におけるCARB-Xの優先事項は?

A:今年の初めに、私たちはまさにその問いについて答えを出すべく戦略的レビューを開始しました。結果は数ヵ月以内に発表する予定です。レビューを行う中でわかったことは、私たちが現在行っていることを今後も継続していくことが非常に求められているということです。米国疾病対策予防センター(Centers for Disease Control:CDC)と世界保健機関によって特定された最も危険度の高い病原体を治療できる新たなタイプの抗菌薬が今なお喫緊に必要とされています。今回のプロセスは、製品開発者を苦しめているいくつかの共通テーマをはっきりさせ、研究エコシステム全体を支援するプロジェクト横断的イニシアチブをCARB-X内で多数開始するきっかけとなりました。

Q:企業の倒産や統合によって有望な抗菌薬が失われることがないようにするには、それ以外にどのような変化が必要でしょうか?

A:第一に、企業の抗菌薬開発からの撤退を遅らせ、喫緊に必要とされる医薬品の開発を促進するための経済的インセンティブが必要です。新規抗菌薬を製品化するために何年もかけて研究開発を進めても、企業が大きな損失を被って倒産してしまい、結局患者さんが利用できなければ意味がありません。せっかくの橋渡しを無にしたくはありません。しかし、この種の政策についてはいくつかの良い傾向が認められます。例えば、英国で試行されている新たな定額モデルや、ここ米国で出されているPASTEUR法案などです。私たちはこうした動きが続くようにしていく必要があります。これらの新しい支払いモデルは、抗菌薬の販売数ではなく、社会にもたらす価値に基づいて企業が利益を得られるようにすることを目的としています。

今年立ち上げられた企業出資団体のAMRアクションファンドのようなイニシアチブも重要な役割を果たしており、CARB-Xから出資を受けた製品がその後も必要な支援を受けられるようにすることができます。私がこのイニシアチブについて特に良いと思う点は、CARB-Xと同様、資金だけでなく業界の専門知識も提供するという点です。これは重要なポイントです。なぜなら、現在、抗菌薬開発の原動力となっている小規模企業のほとんどは、後期臨床試験へ移行してFDAの承認取得プロセスを乗り切り製品を市場に投入するためのリソースを持っていないからです。CARB-Xが初期段階の製品に対して行っているような形で、AMRアクションファンドなどの団体が後期段階の製品を支援することができれば、大いに役立つと思います。

Q:COVID-19が世界的流行に流行していますが、薬剤耐性によるまた別の公衆衛生上の危機を阻止すべく取り組む上で、COVID-19の世界的流行からどのような教訓を得ることができますか?

A:スーパー耐性菌との闘いに応用できる教訓としては、備えがいかに重要であるかを皆さんに認識してほしいと思います。公衆衛生上の危機が生じた時に動き出すのではダメなのです。新しい治療法を開発するには時間がかかります。そのため、必要な新規抗菌薬を見つけるために今すぐ取り組むことが不可欠です。

Q:スーパー耐性菌がもたらす脅威について、より多くの人に知ってもらいたいことは?

A:私たちは、有効な抗菌薬の恩恵を受けて生きることが当たり前になっています。出産の際に感染症で死ぬかもしれないと思う女性が今どきいるでしょうか?人工股関節置換術を受ける際、自分が院内感染によって死ぬ可能性を考える人がいますか?感染のリスクがあるからといって治療を見合わせることを検討する癌患者さんがいるでしょうか?

安全で有効な抗菌薬があるのが当然ととらえられているだけではありません。考えてみる対象にすらなっていないのです。しかし、そうした認識が変わる頃には、すでに手遅れになっているかもしれません。

この問題の一端をなすのは、抗菌薬がなかった時代の恐ろしさを記憶している人がほとんどいないということです。それ以外の人々にとって、その概念はあまりにも現実味がなく、理解不能に感じられます。これは、うちの子たちが携帯電話のない世界を想像しようとするようなものであり、不可能なのです。

また、抗菌薬はアスピリンのようなものではないことも理解する必要があります。抗菌薬は常に同じように作用するわけではなく、細菌が最終的に現在利用可能なすべての抗菌薬に対して耐性を獲得することは明らかです。新しい抗菌薬を速やかに見つけることができなければ、私たちは非常に困難な事態に陥ることになります。