出典: The Hill

Azar長官は薬剤耐性に一刻も早く対処を

先月下旬、米国保健福祉省のAlex Azar長官は、COVID-19のステータスを拡大し、公衆衛生上の緊急事態としました。

しかし、COVID-19ほど知られていない健康危機である「スーパー耐性菌」にも注目する必要があります。

米国疾病対策予防センターによると、米国ではこれらの薬剤耐性菌や薬剤耐性真菌によって、すでに年間3万5千人以上が死亡しています。しかも、これは控えめに見積もった数字です。ワシントン大学(セントルイス)の研究者らは、米国における実際の年間死者数は16万2千人を超える可能性があると推定しています。薬剤耐性感染症は誰でも感染する可能性がありますが、これらの犠牲者の多くは、免疫系の低下によりそうした感染症を撃退できない入院患者です。

今後数年の間に、スーパー耐性菌が進化して残りの治療薬に対する耐性を獲得すれば、死者数が急増する恐れがあります。仮にそのような事態が実際に起こった場合、これらの治療不可能な感染症は何百万人もの米国人を脅かす可能性があり、帝王切開や人工膝関節置換術などのごく一般的な医療処置を行うことも危険になる可能性があります。

Azar長官は、スーパー耐性菌が極めて大きな脅威をもたらすことを十分に認識しています。しかし、ほかの多くの連邦政府関係者は、その脅威を十分認識していません。政府関係者を教育し、より有効な新しい治療薬の開発の促進を手助けするのは、公僕として長い経験を持つ長官の役目です。

スーパー耐性菌は、公衆衛生に対して差し迫った危険をもたらします。毎年、280万人以上の米国人が抗菌薬耐性感染症に罹患しており、回復しない人も多くいます。全世界では、年間70万人がスーパー耐性菌によって死亡しています。

皮肉なことに、抗菌薬を使用するほど、これらの感染症の耐性は高まります。

例えば、レンサ球菌による喉や耳の感染症などに対して、患者さんが抗菌薬を服用するたびに、一部の細菌が生き残ります。これらの生き残りがその後進化し、より強い耐性株となって増殖することにより、抗菌薬による治療が役に立たなくなります。

その懸念は、患者さんが二次性細菌感染症にかかりやすくなるパンデミック発生時には特に大きくなります。2009年に発生したH1N1型インフルエンザのパンデミックでは、二次性細菌性肺炎が死亡の29~55%を占めたと考えられています。今回のパンデミックでは、米国におけるCOVID-19の入院患者の21%が二次性細菌感染症に罹患しています。生命を脅かすこうしたスーパー耐性菌は、さらに耐性を獲得して、COVID-19患者の生命を脅かしており、医療分野における国内トップクラスのブレーンが総力を挙げて新たな抗菌薬に取り組む必要があります。

しかし、それは現実のものとなっていません。それどころか、バイオテクノロジー企業は新規抗菌薬の開発に苦戦しています。

経済的な観点から見ると、バイオテクノロジー企業が抗菌薬に投資して成功するのは実質的に不可能です。通常、バイオテクノロジー企業の事業モデルでは、膨大な資金を研究に先行投資し、その結果できた医薬品を大量に販売することで、(願わくば)その投資を回収し、収益を得るようになっています。

しかし、より頻繁に使用するほど薬剤耐性が生じやすくなるため、医師は最も強力な抗菌薬の使用を緊急時用として控えています。実際、強力で新規性が高い抗菌薬ほど、使用量を少なくする必要があります。したがって、従来の事業モデルは、この種の薬剤では機能しません。

抗菌薬に投資する大手企業がどんどん少なくなっているのはそのためです。現在は、抗菌薬の研究開発の80%を小規模なバイオテクノロジー企業が占めており、これらの企業は事業を存続させることに悪戦苦闘しています。抗菌薬の新興企業であったMelinta 、 Achaogenは、有力な製品があったにもかかわらず、昨年、破産申請を行いました

幸いなことに、米メルク、ファイザー、イーライリリーなどの大手研究開発型製薬企業を含む20社の医薬品開発企業が、2030年までに2~4剤の新規抗菌薬の開発を目標とした10億米ドルの共同ファンドの設立を先日発表しました。この「AMRアクションファンド」は、早期開発段階の抗菌薬研究に投資することを計画しています。

これは、スーパー耐性菌との闘いにおいて歓迎すべき進展です。しかし、10億米ドルでこの闘いに勝利することはできません。Azar長官自身が議会の公聴会で認めた通り、連邦政府は抗菌薬の研究開発を推進するために、これをはるかに上回る取り組みが必要です。

Azar長官率いる保健福祉省にはそれを主導することが可能です。例えば、HHS傘下のCenters for Medicare and Medicaid Servicesは、新規抗菌薬を適切に使用する病院に対する償還額を増やすことができます。病院が新しい抗菌薬を購入してくれることがわかっていれば、バイオテクノロジー企業が抗菌薬の開発にリソースを投入する可能性ははるかに高くなります。

また、抗菌薬開発者に対する市場参入報奨金を支援することもできるでしょう。政府によるこうした単発の経済的インセンティブは、救命につながる次の抗菌薬の研究開発費をまかなう助けとなります。

適切なインセンティブがあれば、切実に必要とされている抗菌薬の開発が刺激され、今後30年間で16~20剤開発することができると考えられます。ある研究によると、8億米ドル~15億米ドルの報奨があれば、こうした救命薬の開発が可能になるとされています。

Azar長官は最近の公聴会で、「私たちは使用されない抗菌薬に対する投資を製薬企業に求めることになります。つまり、これは経済的な問題です」と認めています。

長官は明らかに現在の問題について理解しており、解決に向けて取り組みを開始してくれることを期待したいと思います。コロナウイルスでの経験とは異なり、スーパー耐性菌のパンデミックが近づきつつあることはわかっており、今から必要な医薬品の開発を開始することができます。

しかし、これ以上取り組みが遅れれば、治療不能なスーパー耐性菌によって、コロナウイルスなど序の口だったと思われるような、大変な事態が起こるかもしれません。