出典: pharmaphorum

今こそ医療イノベーションを約束する時:医療のデザインと提供の再考

COVID-19によって生まれた官民のパートナーシップを拡大し、健康イノベーションに関する政府とのより高度な対話に発展させる必要がある理由について、ヤンセンのAnouk De Vroey氏は以下のように語っています。

2020年3月13日(金) – 私は基本的に迷信を信じるタイプの人間ではありませんが、ベルギーでCOVID-19によるロックダウンが始まった、この13日の金曜日のことは決して忘れないでしょう。

健康を祈願するというのは長い歴史を持つ一般的な習慣ですが、健康であることや健康を維持することがこれほど重要になったことはありません。そして、連携がこれほど重要になったのも初めてのことです。私が製薬部門で働いてきた20年のあいだに、医療の最適化と科学研究の促進に向けてパートナーを組むことへの意欲は着実に高まってきました。そして、こうした気運は今回私たちが陥った状況によってさらに増しています。

COVID-19は、人々の暮らしや事業に深刻な影響を及ぼし続けており、迅速かつ長期的な解決策を見出すためにすべての人が力を合わせる必要性を浮き彫りにしました。

欧州の復興に向けた連携

I各業界や部門では、この疾患に立ち向かう上で役立つ可能性のある診断検査、治療薬、及びワクチンの開発に向けて、すでに力を合わせた取り組みが行われています。例えば、ヤンセンのベルギー法人では、連邦政府や大学、そしてほかの製薬企業と協力し、Beerseにある当社の拠点にCOVID-19の診断検査専用ラボを速やかに立ち上げました。

また、規制プロセスを合理化して、可能性のある治療法やワクチンの探索を支援する新たな緊急措置を導入するために、規制当局や政策立案者が驚くべき速さで作業を進める様子も目にしました。

個人であれ、企業であれ、あるいは業界であれ、単独でCOVID-19やその他の疾患の撲滅に成功することはできません。その実現には、極めて大規模な共同取り組みが必要になります。今回のパンデミックは、協力の精神を触発し、社会が1つの共通目標に向けて力を合わせれば何が実現できるかを示しました。私たちは、医療システムが直面する最も差し迫った問題について前進を続けなければならず、イノベーションを支援し可能にする頑健で長期的な政策枠組みを整備する必要があります。

私たちは、ほかにも多くの世界的な公衆衛生上の課題に直面しており、この連携と信頼のモデルによって将来の政策をどのように改善できるかを自問する必要があります。脅威の中には予測できないものもありますが、抗菌薬耐性(AMR)に対処する喫緊の必要性など、すでにわかっている脅威もあります。そして、公共政策の優先順位と業界のインセンティブを合致させた枠組みの中で取り組んでいくことができれば、将来的な課題に対してより適切な備えをすることができます。

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、先進的な研究開発型製薬企業が集まり、世界保健機関、欧州投資銀行、及びウェルカム・トラストと共同で最近立ち上げたAMRアクションファンドに参加しています。同ファンドは、2030年までに2~4剤の新規抗菌薬を製品化することを目指し、約10億米ドルを投資することを公約しています。これが成功すれば、この種の共同取り組みがさらに増えていくものと考えられます。

今回のパンデミックは、協力の精神を触発し、社会が1つの共通目標に向けて力を合わせれば何が実現できるかを示しました。私たちは、この連携と信頼のモデルによって将来の政策をどのように改善できるかを自問する必要があります」。

将来に向けた医療イノベーションの約束

COVID-19の世界的流行が続き、状況が刻々と変化する中で、欧州市民は二重の危機に直面してきました。1つ目は医療への大きな負担による危機、そしてそれに続く欧州経済に対する影響による危機です。

しかし、こうした危機は、地域規模と世界規模の両方で価値を提供するために必要な装備を備えた、より良い医療システムをつくろうという気運を高める機会ともなります。私たちは、今回の危機によって生まれた官民のパートナーシップを拡大し、地方自治体や欧州連合の機関との高度な戦略的対話に発展させる必要があります。

  • 短期的には、有効なワクチンが利用できるようになるまで、スクリーニング、追跡、トレーシング、及びデータ収集をグレードアップするための共同取り組みを優先的に行っていくべきです。
  • 今回の危機では、前代未聞の速さで遠隔医療ソリューションへの移行が進みました。これらの教訓を生かし、医療のデジタル化を加速させるべきです。遠隔診療やモニタリングは、来院に代わる手段を提供してきました。この経験は、デジタル・オプションが医療システムのリソースを有効活用できるようにし、人々が自宅でケアを受けられる患者中心のソリューションを実現できる可能性を示しています。
  • 長期的には、すべてのステークホルダーが協力し合って、新しい支払いモデルの確立、ビッグデータやリアルワールドエビデンスのさらなる活用などを含め、将来のニーズに対応した欧州医療システムの青写真を共同で描く必要があります。

ヤンセンでは、患者さんが受ける医療を改善するという共通目標を達成するため、医療当局や研究・医療コミュニティ(官民両方)との連携にこれまで以上に取り組んでいます。私たちは、人材、リソース、そして世界トップレベルの科学が、EUの復興計画に貢献できるようにしたいと考えています。しかし、私たちは一企業にすぎません。欧州全体における長期的な医療の重要性の強化は、製薬業界全体からの強力かつ革新的な貢献によってのみ可能となります。

政策の進捗状況はどうなっているか?

私たちは皆で力を合わせ、進歩を促進して永続的な変化をもたらすイノベーションを社会に約束する責任があります。これらの約束には以下が含まれます:

  • 将来の課題に対する備えや疾病予防を改善する。 ワクチンや治療薬の開発、試験、承認、及び製造には、世界的な協調取り組みが必要です。政策立案者と業界は、全世界における効果的な介入の迅速な展開を加速させる適切なメカニズムが整備されるよう、より緊密に協力して取り組んでいく必要があります。また、世界規模の危機が起こった際に、ほかの病気に苦しむ患者さんの医療が損なわれることがないようにする必要もあります。
  • 価値に基づく医療を支援する。 重要業績評価指標(KPI)を定義するための高度な手法が必要です。リアルワールドデータ(RWD)の大規模な使用は、患者アウトカムの改善に役立ち、より包括的な価値の測定を推進し、医療予算が限られている状況でさまざまな治療形態を評価する意思決定者に役立つ可能性があります。規制プロセスやHTAプロセスは、RWDの体系的な使用に適応し、これを受け入れる必要があり、欧州のHTAシステム間の著しいばらつきをなくす取り組みを継続する必要があります。
  • より患者中心的で、より良い結果を生み出すことができる医療ソリューションを開発する。 可能であればデジタルアプリやデジタル機器を使用して、患者さんの視点をあらゆるレベルの意思決定に取り入れ、患者さんが治療パス全体に関与するようにする必要があります。
  • 世界レベルの医薬品承認制度の改善・維持を行う。 現在、EUの保健当局の強化が重点的に行われているのは喜ばしい傾向であり、欧州医薬品庁(EMA)の取り組みはこれまでのところ順調に進んでいます。しかし、科学の進歩に遅れをとらないようにする必要があります。 欧州疾病対策予防センター(European Centre for Disease Prevention and Control:ECDC)が、監視、備え、及び対応の調整において中心的役割を果たすべきであり、それを国任せにして各国が独自に行う形にしてしまうと、EUが医療及び科学政策を主導する力が損なわれる恐れがあります。

いずれ2020年3月13日の金曜日という日が、ベルギーのロックダウンが始まった日としてだけでなく、科学と頑健な政策決定がうまく融合し、パートナー間の信頼と透明性が高まった、健全なヨーロッパの未来が始まった日として振り返ることができるようになることを切に願います。業界と保健当局の間で医療イノベーションを約束することにより、このビジョンを現実のものにすることができます。短期的な緊縮措置のみに重点を置いた取り組みでは、これを実現することはできません

イノベーションを促進する枠組みを強化することができれば、現在最適なソリューションが存在しない領域における必要不可欠なワクチンや変革的な治療へのアクセス機会を社会に提供する手助けをすることができます。